皆さんは『金属アレルギー』という言葉をお聞きになったことはありますか?
アレルギーは、食品や薬物、ハウスダスト、花粉などの「原因物質」が体内に取り込まれることにより、体のもつ免疫が自分の皮膚や粘膜を攻撃するように働いてしまう反応です。金属が原因物質となる場合を「金属アレルギー」と呼びます。
歯科領域において金属アレルギーが問題視されるようになったのは、ごく最近のことです。
その理由として、アレルギー疾患を受診するのがほぼ皮膚科であること、また、多くの皮膚科医や歯科医師が、お口の中の金属が、金属アレルギーの原因となるという事実を、十分に認識していなかったことなどが、あげられます。
しかし近年、金属アレルギーと歯科治療の関係が、皮膚科医や歯科医師から重視され、取り上げられてきています。義歯、詰め物などの治療物、矯正器具など、アレルギーの原因となり得る金属が、口腔内に存在する以上、皮膚科と歯科の密な連携による、金属アレルギーの予防と治療への取り組みが、必要ではないかと言われています。
アレルギー疾患とは、体に備わる免疫が、特定の物質を「排除するべき異物」とみなして抗体をつくり、攻撃を加えた結果、体に炎症や障害を引き起こすものです。
代表的なアレルギーである花粉症は、花粉を「異物(=敵)」とみなした免疫の抗体反応によるものですし、アトピー性皮膚炎も、ほこりや特定の食品に対するアレルギー反応によって、引き起こされるものです。
金属アレルギーは、免疫が特定の金属を「異物(=敵)」とみなして攻撃をした場合に起こるもので、アトピーや花粉症と仕組みは同じです。
日常に主にみられる金属アレルギーは、金属に直接触れた為におこる、アレルギー性接触皮膚炎で、ピアスやネックレス、コイン、加工段階で金属を使用しているなめし皮、金属の混じった砂や磁器などに触れるた部分に、強いかゆみや発疹が起こるものです。ひどい場合には、皮膚がむけることもあります。
金属アレルギーによる皮膚や粘膜の病変には、直接触れる部位に起こる接触性皮膚炎の他に、接触していない部位に起こる全身性接触皮膚炎があります。
全身性接触皮膚炎とは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を口や気道、血液から摂取することで生じる病変で、原因としては、食品に含まれている微小な金属の成分や、お口の中の歯科金属によるものなどが、あげられています。
他の物質によるアレルギー疾患と同様に、接触していない部分の皮膚、肺や腎臓にも、影響が及ぶ可能性があります。腎炎、喘息・過敏性肺炎、偽アトピー性皮膚炎、汎発性湿疹、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、水銀皮膚炎などが、知られています。
かつて、虫歯治療の詰め物(充填物)などに、ごく一般的に使用されていた「アマルガム」いう物質は、高濃度の水銀が含まれている、人体にとって危険な物質です。奥歯に黒ずんだ銀色の治療物がある場合、それはほぼ間違いなく、アマルガムでしょう。見かけが銀色のため、いわゆる「銀歯」と勘違いされている方も、かなり多くいらっしゃいます。アマルガムから溶け出た水銀による、全身への毒性が、近年、問題視されています。
金属アレルギーは、金属との接触から起こるわけですが、実は金属そのものは、人体に対して無害と言われています。
金属がイオン化し、溶け出すことではじめて、アレルギー反応を引き起す原因となるのです。
金属のイオン化したものが、皮膚(表皮~粘膜上皮)の蛋白に結合して、本来、体がもっていない表皮構造の蛋白ができあがると、免疫がこれを異物とみなして、拒絶反応を起こします。
金属がイオン化して溶け出すことを、金属の溶出といいますが、金属の種類によって、溶出しやすいものと、しにくいものとがあります。そのため、金属にはアレルギーを起こしやすいものと、そうでないものとが存在しています。
お口の中の金属は、唾液や食べ物などが電解質として作用することで、腐食性変化を生じ、溶出されます。また、口腔内にはそれ以外にも、各種の溶出要因が共存しています。
歯肉から浸出する体液、食べカスによる電解質の存在。細菌が産出する酸や硫化水素。温度や、酸素の濃淡などの変化。咬む力が働く部分の金属に起こる応力腐食や咬耗など、口腔内は、さまざまな要因が複雑にからみあった、金属にとって極めて過酷な溶出がおこりやすい環境なのです。
普通の状態では、丈夫で変化しにくい鉄が、雨にさらされると、容易に腐食するように、金属は環境の影響を受けやすいものです。
種類の違う金属の間には、電位差が生じ、そのため、一定の大きさと方向をもつ電流が起こります。(※ガルバニー電流)。
その電気的な刺激は、扁平苔癬や白板症などの原因といわれるほか、味覚異常、感覚異常など、生体に悪影響を与えます。
また、異種金属間に起こる電流は、金属の溶出の大きな原因となっています。
金属間に起こる電流の大きさ等は、金属の取り合わせによって異なりますが、その際、より卑なる金属(アマルガム、銀系合金など)のほうが、溶出傾向が高くみられます。
口腔内に違う種類の金属が使用されている場合は、同一の金属のみの使用時より、アレルギーを引き起こしやすいことが、判明しています。
※ガルバニ電流・・・異種の金属同士が触れ合う時に流れる電流でお口の中でいやな感じやピリッとする痛みを自覚すること。
金属アレルギーにおいて、溶出しにくい金属を用いるのはとても重要なことですが、金属を用いない治療を行うことも、賢明な選択の一つといえます。
その場合に用いられる材料の代表格が、セラミック(非金属無機材料)です。
セラミックは、金属アレルギーの原因とならないだけでなく、生体親和性が高く劣化しない材料で、審美性にも優れています。
プラスチック樹脂を用いる治療もありますが、劣化、変色しやすいため、セラミックに比べると、材料としては劣ります。
イオン化して溶出した金属が、アレルギーの原因となります。そのため、金属の種類によって、アレルギーになりやすいものと、そうでないものが存在しています。
一般に、卑金属は溶出しやすく、貴金属は極めて耐食性が高いため、溶出しにくい傾向にあります。
アレルギーの原因となる金属では、ニッケル、クロム、コバルト、水銀の頻度が高く、また、アルミニウム、亜鉛、パラジウム、、ロジウムなども、原因になりやすいものです。
歯科で用いられる素材の中では、アマルガム合金や銀合金などが、アレルギーを引き起こしやすいものになります。
反対に、貴金属である金やプラチナは、アレルギーになりにくい金属です。(但し、ごくまれにアレルギーが報告されています。)
また、インプラント(人工歯根)の材料に用いられるチタンも、アレルギーを引き起こしにくい、極めて耐食性の高い金属で、生体への親和性の高さから、バイオメタルとも呼ばれています。